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2006年4月5日(水曜日)

 このサイトは木造帆走軍艦時代の王国海軍史を扱ってますが、別に歴史学的な論述をしているわけではありません。だから参考資料を見てもらえると解りますけど、「読み物」レベルの書籍や映画、ドキュメンタリーも参考資料として扱っています。ただし、できる限り多くの資料にあたり検証を行いってるつもり。
 で、引越しで整理に苦労した積読の山(参考資料)を見ていて資料性の有無をふと考えてしまった。

 たしかに参考資料の数は多いが、歴史学の観点からの資料性を問うと、1次資料と呼べる文献は1点のみ、ウィリアム・ファルコナー著「An Universal Dictionary of The Marine」だけ。
 この文献は1769年に初版が発行され、1815年まで改訂版が出版された海事辞典です。多くの参考文献にはこの本に収録されている図版とともに引用されていて、当時の王国海軍、木造帆走軍艦、大砲、航海術、シーマンシップなどについて知ることのできる貴重な文献です。状態は多少悪いけど1780年版のオリジナルを所有してます。ネルソンをはじめとする多くの海軍士官もこの本を読んだかも知れないと思うと感慨ひとしおです。神田の古書店で見つけ入手できたときは天にも昇る気持ちでした(笑)
200年以上前の本で当然著作権など消滅しているので、買ったときからこの本の図版を使用したコンテンツをと考えていますけど・・・(^^;;
 1.5次資料(1次資料の写真製版による復刻版、私がかってに呼んでます)は10点ほどあります。これらは1次資料とほぼ同列に扱えるもので、オリジナルに比べ入手が容易かつ価格も比較的安いので助かります。
 あとは殆どが2次3次資料が殆ど。資料性の質は千差万別、良いものも悪いものもあります。ま、これだけ買うと、買う前に著者と出版元で大体想像がついたりしますけど。
 そうしてみると2度の英国旅行で博物館、史跡で1次資料に触れることができたのは実に貴重な体験でした。ガラス越しとはいえ生の手稿、実物を見ることができ、HMSヴィクトリー、史跡を見学、歩くことにより往時への想像をめぐらす。又、多くの1次資料をカメラに収めることのできた実に有意義な旅行でしたね。

 参考資料の殆どは、扱っている舞台が英国なのでもちろん英国で出版されているものがメインです。英国の参考文献は必ずと言ってよいほど正しい様式で書かれています。補遺、参考文献がついているのは当たり前、それも半端な量ではありません。公文書館、博物館に大量の1次資料が保管され、だれでもが所定の手続きを踏めば閲覧が可能、過去に色々な角度から研究されており文献も多い、読み物レベルのものでさえ参考資料がついている本があるのですから、歴史学の伝統が根付いているのですね。
 英国の公文書館、博物館ではどう見ても普通のおじさん、おばさんが、こんなことを調べたいんだけどと言ってキュレーターや司書と相談している姿を良く見かけましたし、子供向けの展示が実にしっかりとしているので子供時代からよく学んでいる。もちろん資料の収集と保存に大きな時間と労力が費やされています。だから200年前はもちろんエリザベス朝時代でもかなり正確に再現できる。リエナクターも全時代にわたりますし、ホビーとして定着しています。

 さてわが国はというと、大河ドラマや時代劇を見てわかるように江戸時代、戦国時代はとっても怪しい、明治、大正、昭和ですら?マークがついてしまう。もちろんリエナクターなど存在してませんね。
 これも日本史の1次資料も含め良質の資料が少ないんですね。体系だった歴史的な資料の収集保管がされておらず、博物館の活動もいまいち。一般の人は読み物レベルもしくは小説すら歴史書として扱ってしまう。
 これって日本では歴史が教育も含めて全般的に根付いていないんですねえ。東洋は一般的に現世利益追求思想だからしかたが無いのかも知れないけど、とくに日本は、直近の歴史でさえ・・・
 大手の書店でも歴史書のコーナーが小さく置いてある本の数が少ないのが普通の日本、トリビアがはやっても識字率は高くても、知的生活や知識についての関心を持つ人は少ないのでしょうね。

 ちょっと話がずれましたね、日本語で書かれた木造帆走軍艦についての参考文献はというと、無いと言ってよい状態です。翻訳書は何冊かありますが、翻訳者が海事史研究者ではないので、用語が不統一なうえ私が日本語で読んでも?マークのつく部分がままあります。出版社そのものが読み物としてしか扱っていないのではとかんぐりたくなります。もちろん何冊かは合格ですよ。
 帆船に関する研究では著作も多く著名な教授の本があるじゃないという声が聞こえてきそうですが、すいません学術論文を書くのであれば参考資料としては扱えません。全て読んだわけではありませんが、多くは読み物もしくは一般的な入門書どまり。欠けている点があまりにも多いのです。
 私自身、入門時代は氏の著作に助けられたのですから、氏の業績を否定も批判もするつもりはありませんが、正しい様式で書かれていない本が殆どなのです。もちろん大学の教授ですから、正しい様式は百も承知のはず。それでも、読み物レベルもしくは入門書レベルなのは、日本で帆船についてなじみが無く認知度が低いためそのレベルに留まらざるを得なかった、又上に書いたような事情もあるかもしれません。
 しかし、もうひとつ決定的なことがあります、ある著作の数章がまるまる英国の有名な文献の要訳だったことです。これを知ったのは5年ほど前ですが、ショックでした。参考文献の提示が無くもしくはあっても少なく、そのような内容であっては他の著作も同様かもと思わざるを得ません。東京の某海事博物館員とそこのライブラリーで参考文献を探している話をしていてこの話をしたところ、教えを受けた方のようで「日本では資料が少ないから」とかばっておられましたが、その姿勢ではねえ。象牙の塔はいずこも同じようです。

 ホーンブロワーをはじめとする木造帆走軍艦時代の海洋冒険小説は、日本の時代小説よりは歴史的事実を反映していますが、著者のバイアス、フィルターがかかっています。又、C.S.フォレスター自身が、「ホーンブロワーの誕生」のなかで、これは小説なのでと知人の歴史学者に書いていますし、TV映画「ホーンブロワー」の製作者が「ドラマを作っているのであって、ドキュメンタリーではない」と言っていることからも「講釈師見てきたような」なんてのもあります。
 小説はだから参考資料には決してなりませんし歴史書ではないのです。
 それでも参考資料にあげているのは、本当はどうだったのか、小説に書かれている史実と思われる部分を検証して、史実とそうでない部分をできる限り知りたいから、想像で補っている部分を知りたいから、史実を知りたいから、このサイトのポイントは実はここにあります。

 しかし、小説で例外的に参考資料として扱えるものがあります。それは、フレデリック・マリアットとジェーン・オースティンの作品。2人とも木造帆走軍艦の時代の英国に生きた人です。
 フレデリック・マリアットは自身王国海軍士官としてナポレオン戦争を戦い、小説に自身の体験が色濃く反映されています。ラミジ・シリーズのエピソードには、「ピーター・シムプル」に書かれているもがあります。ダドリ・ポープの史書「Nelson’s Navy」には、「ピーター・シムプル」があげられていますので、ここから参考にしたのでしょう。
 ジェーン・オースティンの作品には、自身が所属していた階層である当時の英国のカントリー・ジェントルマンの生活、考え方、行動が反映されていて当時の英国社会の一端を知ることができます。又、兄弟2人が王国海軍士官でしたので、そこから作品に反映されている部分も伺えます。
 作品自体とても面白いので是非一読をお奨めします。
 そうだ多分、チャールズ・ディケンズの作品も上げてよいかも知れませんが、ほとんど読んでいないのでちょっと解りません。

 さて、この4月新しく大学に入学された方々で、史学部や史学科で学ぶ方も多いでしょう。その中でもしかして、ホーンブロワーをはじめとする木造帆走軍艦の時代の王国海軍について研究したと思っている方がいるかもしれません。そしてもしその方がここを見ていたら、参考文献は翻訳書が出版されていても、原著を入手して読んでください。このサイトで参考文献として挙げている洋書資料は大半が良書です。又、是非英国、フランスなどへ研究旅行をして1次資料に触れてください。そして、優れた卒業論文を物にしてくださいませ。
大学とは本当に学ぶところ、遊ぶところではありません。山になった英文参考資料を読むために、四十の手習いで英語の勉強をしてますが、ぜんぜん頭に入らないウーム。あの時もっと真剣に学んでおけばよかった、卒業して何十年もたった今後悔してます。

ありゃー、Captain’s Logは簡潔かつ必要十分アンド軽い内容をモットーとしているのに、重たい内容で随分と長文になってしまった、いかんなあ。

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